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岡山地方裁判所 昭和24年(行モ)4号 決定

岡山県後月郡共和村大字下二千九百七十一ノ一

申請人

平木靜江

同所

申請人

照美こと 石井照海

右申請代理人弁護士

山村利宰平

同県小田郡笠岡町大字笠岡

被申請人

笠岡税務署長 馬場茂

右指定代行者

笠岡税務署 大蔵事務官 枝広悟

右当事者間の昭和二四年(行モ)第四号差押財産公売執行停止申立事件に付当裁判所は被申請人の意見を聴いた上左の通り決定する。

主文

本件申請は之を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

申請代理人は、被申請人が訴外石井益夫に対し昭和二十三年九月十七日、昭和二十一年度の増加所得税一万四千九百六十八円、昭和二十二年度の所得税十四万六千五百五十三円六十銭の滞納税金徴收のため、差押えた別紙目録記載の物件に対する公売執行を、岡山地方裁判所昭和二十三年(行)第五九号差押物件解放請求事件の判決言渡しに至るまで停止するとの裁判を求め、その申請の理由として、被申請人は訴外石井益夫に前示の滞納税金があるとして昭和二十三年九月十七日申請人等所有の別紙目録記載の物件に対して差押を執行し、目下公売手続をしようとしている。然し申請人靜江は申請人照海の実母であつて同人と同居して居り、差押物件は申請人等の所有で右石井益夫のものではない。従つて同人の滞納税金のために差押えられる訳はない。差押の際にも申請人等からその旨申立てて差押えないようにたのみ又差押後は速に解放して欲しいとたのんだが一向に顧みられない。申請人靜江には照海の他に尚五人の子供があり女の細腕で六人の子供を扶養して居、それに差押物件は一家の食糧と全家族の衣類と営業用の自動車などである。之等は全家族の生活になくてはならぬものばかりである。

公売は二束三文である。配給の衣料切符で、而も配給の品でも一着一枚が数千円もする今日何一つ公売せられても生活に余裕のない申請人等には補うことのできないものばかりである。

申請人等は曩に御庁に所有権に基き前記差押物件の解放を被申請人に対し訴及しているが、その勝敗前に公売せられては申請人等は回復し得ない著大な損害を蒙るから本申請に及ぶと謂うに在る。

仍つて按ずるに、申請人が本申請に於て求めるものが、訴外石井益夫に対する増加所得税及び所得税の滞納税金徴收のため差押えた本物件の公売処分の執行停止であることは、その申請の趣旨に依り明らかであるところ、本件物件の差押処分は既に為されているが、その公売処分は未だ之なきことその申請の理由に依り亦明らかである。国税徴收法の滞納処分の実質は単純な一個の処分でなく独立に評価せられ、その効果を認めらるる差押処分と公売処分と相俟つて形成せられる手続である。行政事件訴訟特例法第十條に規定する行政処分の執行を停止すべき命令は,行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴の提起があつた場合に於て、その処分について之をすることが出来るのであつて、処分の為されない前に於て予めその処分の執行停止を命ずることは出来ない。申請人の申請は理由がない。

仍て本件申請は之を却下すべきものとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 中島貢 裁判官 三関幸太郎 裁判官 菅納新太郎)

(別紙目録省略)

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